撮るという行為が対象に変化をもたらす。前代未聞の量子論的ドキュメンタリー! 「アクト・オブ・キリング」

 豊橋ミケ(以下猫) 遅ればせにゃがらジョシュア・オッペンハイマー監督のドキュメンタリー映画「アクト・オブ・キリング」を観てきたにゃ。
 
 九条小夜子(以下九) 政治的な題材を扱ったドキュメンタリーの場合、内容が真実かどうかが問題になることがある。でもこの「アクト・オブ・キリング」なら心配無用。何故って手を下した本人が事実だって堂々と認めてるんだもん。
 舞台はインドネシア。東西冷戦期の1965年9月にクーデターが起きた。陸軍のスハルト少将によって阻止されるんだけど、彼らはクーデターの首謀者を陰で操っていたのは共産党だと主張して、間接的に共産党関係者や共産主義者と見なされた人達を虐殺したのよ。
 間接的っていったのは軍や政府機関が殺ったわけじゃないから。手を汚したのはプレマン民兵組織なの。
 73年に検事総長が共産主義者の虐殺に対し法的制裁をしないと決めてしまった。プレマン民兵組織は許されただけでなく英雄になってしまったのよ。
 インドネシア虐殺を映画にしたいと考えていたジョシュア・オッペンハイマー監督は被害者やその遺族に取材を試みたけど、皆報復を恐れて協力してくれず、うまくいかない。
  エンドクレジットでアノニマスって名前ぞろぞろ出てくるにゃ。
  そうそう。面倒を恐れて現地スタッフの多くが匿名になってるんだ。
 そこで思いきって加害者の方に取材してみたら、意外と反応がよかった。そこで彼らに自分達がやった事を再現した映画を作りませんかと提案してみる。
  まさに逆転の発想にゃ。
  思いついただけでも凄いけどよく提案したよね。普通しねえだろって思うけど、もっと凄いのはこれをOKしちゃう加害者達。
 皆ノリノリで、最初は学芸会みたいな芝居だったのが、だんだん規模が大きくなって、ついにはエキストラやセットを使って村を焼き払うとこまで再現しちゃう。
 どうしてこうなるの? っていうと前にも書いた通り、インドネシアじゃ共産主義者の虐殺は悪いことって見なされてないんだ。むしろいいことになってる。
  それにしても自慢話みたいに話してたのは……。
  日本人の感覚じゃなじめないよね。観ていて怖いし、腹立たしかった。
 プレマンっていうのははっきりいってやくざ。で、民兵プレマンがチンピラなら○○組ってとこかな。
  どっちもやくざにゃんだにゃ。
  先にいった通り彼らは英雄扱い。50年近く経ってるんだから、カタギになってるかと思いきや、民兵の方は相変わらずやくざみたいなことしてる。さらにインドネシア政府と癒着していて、それを隠そうとしないどころか、大々的にアピールしてる。
 かつて日本でも企業が労働運動つぶしにやくざを雇っていたし、原発の下請けとやくざは密接な関係がある。でもそれはおおっぴらにできる事じゃない。日本ではね。でもインドネシアじゃ違うんだ。ウチはそっちの方が怖かったな。

 再現場面のメインとなるのはアンワル・コンゴっていうプレマンのおじいちゃん。
  元じゃにゃいの?
  映画を観る限り元じゃないんじゃない? さすがに現場には顔を出してはいないみたいだけど。
 ニカウさんに似たおじいちゃんで、話を聞いた後でも共産主義者を虐殺したような人には見えない。
 最初は得意気に話してたんだけど、撮影が進むうちに罪悪感が芽生え、かつて自分が殺した共産主義者の幽霊が出てくる悪夢にうなされる。
  この幽霊が日本のそれと違って、60年代の特撮ヒーローものの悪役みたいにゃチープでけばけばしいものにゃんだにゃ。
  スモークの中でそいつが高笑いしてるのは今の日本人にはギャグだよね。
 アンワルおじいちゃんと一緒に共産主義者を虐殺をした人が何人か出てきて、やっぱり彼らも最初は俺は悪くない、殺したがどうした!? って言うんだけど、何人かは自己正当化してるだけかも……って遠回しに罪を認めるような事を口にするようになる。
  虐殺現場のすぐ近くで働いていた新聞記者が全然気づかにゃかったって言うと、虐殺していた男がそれはありえにゃい、お前は距離を置きたかったんだって言うシーンが印象的だったにゃ。
  当時もやっぱりおかしいって思ってたんだね。政府が怖くて口に出さないだけで。
  当時だからこそおかしいって思えたのかもにゃ。
  かもしれない。でもアンワルおじいちゃんと民兵組織の人達がTV番組に出るシーンで裏方のスタッフが人殺しのくせにって感じの言葉を吐き捨てるシーンがあるんだよね。全員とはいわないけど、プレマン民兵組織のあり方に不満を抱く人もいるんだと思うよ。
 アンワルおじいちゃんは殺害の再現だけでなく、捕まった共産主義者まで演じて、殺される側の立場を追体験する。
 この頃になるとアンワルおじいちゃんは良心の呵責に苦しんでいて、先の芝居で自分が殺した者の気持ちがわかったと言い出す。
  そこに芝居と実際に殺された者じゃ立場が違うと監督は言うんだにゃ。
  厳しいなぁ。
 ラストシーンはかつての殺害現場でアンワルおじいちゃんが今の心境を吐露する。何度もえづきながらね。そしてとぼとぼと去っていく。カメラはその後ろ姿をただただ見送るだけ。
 ウチはアンワルおじいちゃんが心配になったよ。映画の中ではっきり虐殺は罪だって認めちゃってるし。
 それってインドネシアの現体制の否定だよね。改心して公的に懺悔したって話も聞かないし、アンワルおじいちゃんにはできないと思う。
 インドネシアで生きていくには自分の中に芽生えた罪の意識を殺すしかない。でも一度芽生えた罪の意識は消えないだろうね。
 インドネシアにいる限りアンワルおじいちゃんは死ぬまで自分の良心を殺し続けるんだ。
 映画を撮ることで一人の人間の意識を変革した。アンワルおじいちゃん自身は辛いと思うけど、ウチは“英雄”から人間に戻ったから安心してるんだ。

 この映画が描いているものの一つは勝てば官軍の恐ろしさ。でもそれってインドネシアに限った事じゃないと思う。

 演技とは真逆なはずのドキュメンタリーでありながら演じることの意味と可能性を示した「アクト・オブ・キリング」。これに賞をあげなかった米アカデミー会員の目はフシ穴よ!


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テーマ : ドキュメンタリー
ジャンル : 日記

tag : アクト・オブ・キリング アンワル インドネシア 虐殺 プレマン ドキュメンタリー 民兵

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もっと広く知られるべき

 個人的に一つ痛恨事が。
 この「アクト・オブ・キリング」、地元のミニシアターでも先日上映したのですが、計画立てて見に行ったらまさにその日からかなり遅い夜間の上映に時間が変更になっていて、家族の世話もある自分は視聴を断念せざるを得ないハメに。もう1週早く見に行っていたらと…。
 一時はAmazonマーケットプレイスでかなり安い値段で売られている輸入英語版DVDを買おうかとも思案したぐらいです。 理解できる保証も無いのに(^^)。結局WOWOWで放送される可能性に賭けて思いとどまりましたが。その認識が当たっている事を祈ります。

Re: もっと広く知られるべき

>  個人的に一つ痛恨事が。
>  この「アクト・オブ・キリング」、地元のミニシアターでも先日上映したのですが、計画立てて見に行ったらまさにその日からかなり遅い夜間の上映に時間が変更になっていて、家族の世話もある自分は視聴を断念せざるを得ないハメに。もう1週早く見に行っていたらと…。
 系列館と違ってミニシアターやシネコンは映画館側の判断で上映スケジュ-ルを決められます。特にシネコンはスクリーン数が多いくせにシビアで不入りな作品は早々と上映回数を減らされたり、公開打ち切りになってしまいます。
 事前にネット等で調べて行くのが吉ですね。
>  一時はAmazonマーケットプレイスでかなり安い値段で売られている輸入英語版DVDを買おうかとも思案したぐらいです。 理解できる保証も無いのに(^^)。結局WOWOWで放送される可能性に賭けて思いとどまりましたが。その認識が当たっている事を祈ります。
 台詞に頼る部分が多いので見送ったのは正解だと思います。WOWOWでの放送については何ともいえません。個人的には望み薄かなと思っています。しかし、「アクト・オブ・キリング」は映画ファンの間では話題になったのでDVD化は高確率でありと思っています。TUTAYA等に置かれる日も遠くないかもしれません。

どこかの会社の英断に期待

>>事前にネット等で調べて行くのが吉ですね。

 数日前にそこのサイトで確認はしていたのですが、途中で時間が変更される可能性までは考慮していなかったのです。というより、事実上土日にしか動けない身なのでその時点では既に手遅れだったのですが。むしろ、万難を排して上映開始直後に行くべきだったかと思っています。

>> 台詞に頼る部分が多いので見送ったのは正解だと思います。WOWOWでの放送については何ともいえません。個人的には望み薄かなと思っています。しかし、「アクト・オブ・キリング」は映画ファンの間では話題になったのでDVD化は高確率でありと思っています。TUTAYA等に置かれる日も遠くないかもしれません。

 むしろ、これだけの作品が、これだけの露出しかないというのがおかしいわけで…物議をかもす内容なのは確かですが。商業的にペイすると思う企業が出れば、有料放送にしてもDVDにしても踏み切るところがあるのではないかというのには同感です。

本当に噴飯ものなので是非聴いて下さい。

>  数日前にそこのサイトで確認はしていたのですが、途中で時間が変更される可能性までは考慮していなかったのです。というより、事実上土日にしか動けない身なのでその時点では既に手遅れだったのですが。むしろ、万難を排して上映開始直後に行くべきだったかと思っています。
 数日というのがどれ程前なのかわからないのですが、直営館、シネコン、ミニシアターを問わず、1週間前には上映スケジュールが発表されます。もちろん変更の可能性はあり、HP等にはその旨書いてあるものですが、実際に変更されるという事は極めて稀です。何があったのでしょう?
>  むしろ、これだけの作品が、これだけの露出しかないというのがおかしいわけで…物議をかもす内容なのは確かですが。商業的にペイすると思う企業が出れば、有料放送にしてもDVDにしても踏み切るところがあるのではないかというのには同感です。
 同感ですが、実は日本ではインドネシアの虐殺は取り上げにくいんですよ。
 TBSラジオの「アメリカ流れ者」を転載したYOU TUBEの「町山智浩が報道自粛に激怒『日本のマスコミはみんなバカ!』 (https://www.youtube.com/watch?v=LdZrvMKIzZM)」で伝えている通り、日本のマスコミは虐殺がテーマのドキュメンタリーであるにも関わらず、全く関係ない話題しか載せませんでした。話題になったとはいえあくまでも映画ファンの間。一般の知名度は低いと認識しておいた方がいいでしょう。WOWOWを視聴しているわけではありませんが、番組表を見るとドキュメンタリーが少なく、スポンサーが敬遠しがちな「アクト・オブ・キリング」を放送する可能性は低いんじゃないかと思っています。これは他の有料放送も同じでしょうし、地上波では絶望的ではないかと思っています。
 DVDは放送に比べれば気を使わなくていいので大丈夫だと思うのですが……。
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