政治に翻弄される一家の視点から描いている故に理不尽さが際立つ「かぞくのくに」

 九条小夜子(以下九) 知ってるのは大まかなあらすじだけのほぼ白紙状態だったからさ、試写会に行くまでは日本映画にありがちな家族の絆ゴリ押しのお涙頂戴映画だと思ってたんだよね。
 豊橋ミケ(以下猫) それどころか小夜ちゃんてば「疲れたから今日は行くのやめよっかな~」とか言ってたんだよにゃ。
  いや~、観る前とはいえホントもったいない事するとこだったよ。

  あたし達が観てきたのは「かぞくのくに」って映画だにゃ。
  今から15年前の1997年夏、脳腫瘍の治療のために25年ぶりに兄が帰ってくる。
  兄がいたのは北朝鮮にゃんだにゃ。
  1958年から始まった帰国事業で9万人もの在日朝鮮人が北朝鮮に渡った。皆さんも地上の楽園ってフレーズを一度は聞いた事があるんじゃないかな?
  それ嘘だったんだよにゃ。
  ただ兄のソンホは自分の意思で北朝鮮に渡ったわけじゃない。実は彼の父は朝鮮総連の幹部なんだよね。劇中、はっきりとはふれてないけど、帰国者を募る手前、幹部の身内が一人も行かないわけにはいかなかったんだろうね。そういう事情に加え、父は北朝鮮の美辞麗句を信じていて、97年になってもそれが抜け切ってないんだよね。
  ただ母と妹のリエはそういった思想を持ってはいにゃい。
  だからウチらに近い視点でリアクションを起こせるんだよね。
  一家全員ガチガチの“信者”だったら感情移入できにゃかったにゃ。
  その構図が活きるのが中盤。リエとソンホは鞄専門店に入る。ソンホは大きな銀のスーツケースを気に入り、リエに「こういうスーツケースを持って旅をしろ」って趣旨の事を言って買ってあげようとするんだけど、値札を見て諦める。
  北朝鮮に住む自分と違って日本に住むお前は自由に外国に行ける。だから俺の分も世界をめぐっていろんにゃものを見てくれっていいたいのかにゃあ。
  そのシーンだけ観れば誰だってそう思うし、そういう気持ちが無いわけじゃなかったと思う。でもその後のシーンを観ると同じシーンが全く違う印象になる。
 夜、ソンホはリエに「外国に行って人の話を聞いて、それを報告する仕事をどう思う」って訊く。
  そ、それって連絡員って事……?
  バイトに誘うような軽い感じで言うんだよね……。
  リエにスーツケースを買ってやろうとしたのも……。
  そう思っちゃうよね……。北朝鮮の事を知らないウチらはスーツケースのシーンを切ないな~、いい話だな~って思っちゃったけど、事はそう単純じゃなかったんだ。
 帰ってきたのはソンホだけじゃない。彼と同様北朝鮮では治せない病気やケガを抱えた人が二人に彼らの監視役のヤン同志が来ていた。
  演じるのはヤン・イクチュン。劇中はほぼ無表情で冷徹な監視員を演じきった。
  だからってロボットみたいな人ってわけじゃない。さりげない仕草や台詞から人間性をかいま見せて味わい深い。
 印象深いといえば中盤、ソンホが昔の友人達と再会するシーン。
 これで最後かもしれない再会に舞い上がって北朝鮮での暮らしを根掘り葉掘り訊くオカマの友人をジャーナリストになった友人がたしなめる。
  その理由が凄いにゃ。北朝鮮に帰ったら日本での生活を総括させられるんだにゃ。
  レポートなんてもんじゃない。どこで誰と会って何を喋ったかまでも逐一報告しなくちゃならない。
  プライバシーも何もあったもんじゃにゃいにゃ。
  オカマの友人はそういう事情を知らないんだよね。ソンホは自分の口からそういう事情を話す事すらできず、トイレに行くと言ってごまかすしかなかった。
 で、話す事が無いもんだから昔、皆が好きだった歌を歌う。
 友人達が歌っている時は黙って聴いていたソンホが歌い出すと今度は逆に友人達が黙りこむ。ラストシーンでも車の中でソンホは歌っていた。彼にとってあの歌はもう帰ることのできない日本の象徴なんだね。
  どっちも寂しそうな顔だったにゃあ……。
  北朝鮮に生きる者と日本で生きる者のミゾは血を分けた親子の間にもあった。
 リエから話を聞いた父がソンホに工作員みたいな事はしてほしくないって言った時、ソンホが珍しく感情を露にするんだよね。
  それでもやり場の無い激しい怒りを抑え込むようにゃ感じにゃんだよにゃ。
  ソンホ達は3ヵ月の間日本に滞在するはずだった。でも検査を受けたら医師から3ヵ月では治せないって言われちゃう。仮に3ヵ月で帰った場合、軽くて記憶障害、重ければ死。
  その前に顔にひどい傷を負った北朝鮮の女性の整形手術が3ヵ月じゃ無理だって話を聞いた父が滞在期間を6ヵ月に延長させようって言うシーンがあるにゃ。
  それが普通の対応だよね。でも北朝鮮は違う。
 突然帰国命令が出て、3人とも治療を放り出して帰らなければならなくなる。
  その理由は最後まで明かされにゃくて、謎のままだにゃ。
  帰国者の中では最も立場が上と思われるヤン同志ですら理由を訊くことも許されない。
 北朝鮮じゃ上の命令は絶対で下の者にとっては自分の命より重いんだ。
  ソンホがリエに北朝鮮で生きていくには何かを考えちゃ駄目だ。思考停止するしかにゃいって言うシーンもあるんだよにゃ。
  父が言うように工作員にはなりたくないなんて言える国じゃないんだ。
 実をいうと最初、ソンホが父の言葉に怒った時は唐突に感じたんだけど、このシーンを踏まえるとソンホの怒りがわかるような気がする。
  何も知らにゃいヤツが偉そうに言うな! って気持ちだったんだにゃあ。
  それだけじゃないと思う。ソンホも妹をスカウトするようなことはしたくなかったんだろうね。
 これがハリウッド映画ならソンホは逃げ延び、手術で腫瘍も治ってめでたしめでたしなんだろうけど、「かぞくのくに」はソンホが北朝鮮におとなしく帰るまでの過程を淡々と描く。
  残酷だけど誰にも何もできにゃい。それが現実にゃんだにゃ。
  実際、この映画は監督の実体験を基にしているからね。

 上映後、主演の安藤サクラ、井浦新、海を走ってきたヤン・イクチュン、監督、プロデューサーらの舞台挨拶が行われた。
  海を走ってきたって……。
  本人がそう言ってたじゃない。
 ラストシーン、実はただ見送るだけのヴァージョンもあって、そっちは脚本の通りなんだけど、監督が不満に思って安藤サクラにアドリブでやらせてみたとか、昨年夏の撮影だったため、皮膚科に行かなければならない程汗をかいたとか撮影の裏話が聞けたよ。
  ソンホは監督の3人の兄がモデル。ただ、実際の兄妹の関係は映画よりも淡々としたものだったみたいにゃ。
  映画の撮影を通して遠慮していたのかなって監督自身が言っていたからね。ただ、ウチが思うに儒教思想が色濃い朝鮮人社会では遠慮というよりは抑制に近いものだったんじゃないかな。
  意外だったのはソンホ役の井浦新が熱心に「かぞくのくに」をPRしていた事。
  即興で質疑応答を始めて、30分の予定だった舞台挨拶が1時間に。
  終わった後もファンのサインに応じてたにゃ。
  いつもそうなのかどうかはわらないけど、彼が強く推す気持ちはわかる気がするなぁ。「かぞくのくに」ならウチもお勧めするもん。
  そういえば韓国での公開も決まったにゃ。
  そうだね。日本とほぼ同じ時期だって言ってた。北朝鮮の事は日本よりも切実な事だから共感を得られるかもしれないけど、逆に北朝鮮の事を何も知らないって事はありえない国だから抵抗もあるかも。
  いずれにせよ多くの人に見てほしいにゃ。
  東京では8月4日から、その他の地域では8月11日から順次公開されます。上映される地域にお住まいの方は是非観て下さい。


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