台湾の西南戦争? 「セデック・バレ」(ネタバレ有)

 九条小夜子(以下九) ただいま~。
 豊橋ミケ(以下猫) おかえり~。正午に始まって終わったのが17時45分! 長かったにゃあ。
  第1部には予告があったし、途中15分の休憩があったから上映時間はだいたい4時間半ぐらいになるかな。
  うわ~、長すぎるにゃ。やっぱあたしはパスして正解だったにゃ。
  観ている間は長さを感じなかったよ。
 何の話かっていうと映画「セデック・バレ」の事。日本統治下の台湾で実際に起きた事件を1部、2部に分けて描いた超大作なんだ。
 ちなみに第1部は「太陽旗」、第2部は「虹の橋」ね。



 セデック・バレとは台湾先住民族のセデック族の言葉で真の人って意味。
 日本の支配に不満をつのらせたセデック族が反乱を起こすんだけど、これは霧社事件っていって、実際にあった事なんだ。
 霧社事件の首謀者が主人公のモーナ・ルダオ。マヘボ社という地域のリーダーで、劇中では頭目って呼ばれてた。
 映画はモーナ・ルダオが狩り場をめぐる争いで初めて敵の首を切り落とす場面から始まる。
 セデック族は台湾の山岳地帯に住む狩猟民族。彼らは敵の首をとると大人の印として額と顎にいれずみを入れてもらえる。そうして初めて一人前の大人と認められるんだ。それで終りじゃない。セデック族は死後、虹の橋を渡って永遠の狩り場に行けると信じている。でも虹の橋には番人がいて、敵を殺したことの無い男は渡らせてもらえず、毒ガニ等に苦しめられるんだ。
  毒ガニ……?
  モーナ・ルダオが父から聞かされる伝承に出てくるんだ。
 話を戻すけど敵の首をとらなければ天国に行けず、地獄に落ちるんだね。
  小夜ちゃん、それって……。
  うん、首狩り族だよ。
 カン違いしてほしくないんだけど、セデック族は懐かしの秘境冒険ものに出てくるような首狩り族とは違う。平地に住む人達相手に毛皮と塩を物々交換したりもする。
  それって貨幣がにゃいって事にゃんじゃ……。
  確かに文明レベルは低いといわざるをえない。でも部外者を見つけ次第殺してしまうような野蛮人じゃないんだ。
  それでも主人公が首狩り族だにゃんて……。
  うん、「セデック・バレ」が最初で最後だろうね。
  そうだろうにゃあ……。
  凄いねー。
  ま、まあ、確かに凄いにゃあ……。
  いっとくけど「セデック・バレ」は切り株描写がウリのスプラッタムービーじゃない。避けては通れないから首を切るシーンは多いけど描写はソフトだよ。日本軍と警察が死体を片づけるシーンじゃ首の無い身体から血が流れ出た跡が無かったから、切り株マニアにはむしろ不評なんじゃないかな。
  そっ、そうにゃんだ……。
  史実なんだからしょうがないよ。
 ミケは道って漢字の由来を知ってる?
  え? いや、知らにゃいにゃ。
  二通りの説があるんだ。
 一つは敵に攻め込まれないためのおまじないとして塀で囲まれた領土から出る道に魔除けやカカシみたいに敵の首を埋めた。
 もう一つは戦場から帰る時、敵の首を提灯のようにぶら下げながら歩いた。
どっちが正しいにしろ道の中の首って生首を指しているんだよ。
  えーっ!
  洋の東西を問わず、敵を倒した証拠として首を切り落として持ち去るって事は頻繁に行われていた。ミケだって映画やアニメなんかでそういうシーンを観た覚えあるでしょ?
  まあにゃ……。
  そういうキャラを危険な蛮族だと思った?
  え、映画によるけど……思わにゃかったにゃ。
  でしょ?
 セデック族はたまたまそれが習慣になっちゃっただけ。程度の問題だよ。ウチはそう思ってる。
  そうかもしれにゃいけど……。
  ちょっと話がそれちゃったね。
 台湾が日本に割譲されるとマヘボ社にも日本軍が来た。首狩り族のセデック族が日本の支配をおとなしく受け入れるわけがない。
  当然争いににゃるにゃ。
  そう。で、日本軍は初戦で惨敗しちゃう。
  ええっ!? にゃんで?
  地の利だね。
 重い荷物を背負いながら通るのがやっとの山道、それもすぐ横は断崖絶壁という悪路を進む日本軍に対し、セデック族は湾曲した剣と猟銃、人によっては弓か投げ槍という身軽な姿。樹上や山の上からよけるによけられない日本軍を撃ったり、岩を落とすなどやりたい放題。

山道を進む日本軍

  いい的だにゃ。
  しかし、セデック族の武器はウチが挙げたものだけ。次第に手榴弾や大砲を持ってる日本軍が優勢になり、セデック族は集落を占領されて降伏せざるをえなくなっちゃう。
 これが第1部の前半。
  えー!? これで?
  狩り場の木は日本人の住宅や施設を作るために伐採され、セデック族はその仕事のわずかな賃金を頼りに暮らすようになった。
 賃金の低さ、日本人の横暴に加え、狩猟民族であるセデック族が人夫の仕事に満足できるわけがない。
 若者の間に不満が高まっていく。そんな彼らをなだめすかしておとなしくさせるモーナ・ルダオだけど、彼も裏ではマッチを集め、先端部の火薬を削って貯めていた。
  何に使うの?
  使わずじまいだった。日本軍の攻撃で起きた火事の際に爆発しちゃったの。若い頃日本軍が使った手榴弾を見て、対抗手段のつもりで火薬を集めていたんだろうね。
  マッチの火薬が戦争で役に立つの?
  ……立たないだろうね。さっきいった火事の爆発も大きな音がしただけだったし。
  何にゃの、そのシーン?
  モーナ・ルダオが反抗心を失っていない事を示していたんだろうね。
 映画では触れられていないけど、史実ではモーナ・ルダオは霧社事件の前にも反乱を企てていたんだ。未遂に終わっちゃったけどね。
 結婚式で勧められた酒を日本人の警官が拒んだ事からマヘボ社の不満は爆発。若者の声に突き動かされる形でモーナ・ルダオは武装蜂起を決意する。
 モーナ・ルダオ達に苦戦する日本軍は目には目をと反乱に参加しなかったセデック族を説得し、味方に引き入れた。その代表がトンパラ社のタイモ・ワリス。彼は若き日のモーナ・ルダオに同胞を殺されていて、それが日本軍に協力する動機の一つになっているんだ。
 同胞が殺されたのは狩り場をめぐる争いのため。この時、モーナ・ルダオはまだ少年だったタイモ・ワリスに対し傲慢な態度をとっていた。
 ハリウッドや日本映画だったらタイモ・ワリスの逆恨みという形にして、モーナ・ルダオの正当性を守ったと思う。セデック族の感覚ではあれが普通って可能性も否定できないけど、「セデック・バレ」で描かれたモーナ・ルダオは聖人君子ではない。
 逆に日本人の全てを悪人として描かなかった。描写は少ないけどセデック族に敬意をもって接した警官も出てきたし、武装蜂起したセデック族が日本人の子供や女性を容赦なく殺した事をきちんと描いている。
 セデック族、日本人の両方を多面的に描いているのが凄くいい。


  ところで小夜ちゃん、さっきから何でフルネームで呼んでるんだにゃ?
  それがさ、セデック族には苗字が無いんじゃないかって気がして……。
  まさかぁ。
  人物相関図を見て。

人物相関図

 苗字にあたる部分が父親の名前になってるでしょ?
  あ……。
  モーナ・ルダオっていうのはルダオの子モーナって意味なんだと思う。
  ルダオの孫はタダオ・モーナだにゃ。
  もしかしたらセデック族には家系って概念が無いのかも。


 日本軍の指揮官がセデック族をなめていた事や地の利もあって序盤は健闘していたモーナ・ルダオ達だけど、地の利を活かすためとはいえ山にこもっての戦いは籠城戦と同じ。ましてモーナ・ルダオ達に援軍は来ない。それに加え飛行機や毒ガスなど当時の先端技術を投入され、敗北は時間の問題になっていた。
 空から赤い花びらが降ってきたと思って手に取ったら投降を勧める日本軍のビラだったってとこは屈指の名シーンだよ。
 物語はモーナ・ルダオの死で終わる。といっても映画では彼の死の瞬間は描かれない。
  それじゃ生死不明じゃにゃいか。
  そうじゃないんだ。ミイラ化した遺体をちらっと映し、モーナ・ルダオの遺体が発見されたというナレーションを被せる。モーナ・ルダオの遺骨は研究標本にされた後、再び行方不明になり、再発見されたのは第二次大戦後の70年代だった。
 日本人が監督したならモーナ・ルダオを行方不明のままで終わらせていたか、ナレーションだけですませていただろうね。でも台湾人の感性なのか、ウェイ・ダーション監督の特徴なのかはわからないけど、モーナ・ルダオの 遺体をきっちり映した。徹底して歴史的事実に基ずこうという姿勢なのかもしれないけど、ラストはモーナ・ルダオを先頭に胸をはって虹の橋を渡っていくセデック族という幻想的なシーンなんだよね。
  にゃんかアンバランスだにゃ。
  うん、ウチもあのシーンには違和感があるんだよね。


 モーナ・ルダオの壮年期を演じたのはリン・チンタイ。存在感抜群なのでプロの俳優かと思ったら実は牧師で映画は「セデック・バレ」が初めてというから驚き。
 ウェイ・ダーション監督がこの映画を作ろうと思ったきっかけはチウ・ルオロンという漫画家が描いた漫画で霧社事件を知った事。オタクのウチにはちょっと嬉しい話だね。
 99年に書いた脚本が高く評価されたものの製作費が集まらず一時断念。08年の「海角七号/君思う、国境の南」の大成功を受け晴れて制作再開。
 苦労したのは資金集めだけじゃない。当初、セデック族と日本人の俳優だけで撮影しようとしたけど、どちらも数が揃わなかった。しょうがないのセデック族以外の台湾先住民や日本人に似ている台湾人も起用。素人が多かったので撮影前に演技のレッスンが必要だった。
 天候にも恵まれなかった。最初に予定していたロケ地が水害で使えなくなり、急きょ代替地を探さなければならなくなった。新しいロケ地が見つかったのはクランクインの11週間前だった。
 セデック族は裸足で生活していた。だからセデック族役の役者は裸足で撮影した。
  今じゃ裸足で生活している人にゃんていにゃいにゃ。
  うん。だから怪我が絶えなかった。さらにロケ地にはツツガムシというダニがいて、それが媒介するツツガムシ病に感染するスタッフが続出した。
  にゃ~、映画ににゃりそうにゃ裏話だにゃ~。
  話題に事欠かない映画なんだよ。


 セデック族の不満というのは「日本人がいばっている」→「気に入らねー」という単純なものじゃない。それが引き起こした霧社事件は日本の占領統治が無かったとしても起きただろう。
 セデック族の習慣は第二次世界大戦前の時代でも広く受け入れられるものじゃないから。
  何せ首をとらにゃきゃ一人前じゃにゃいもんにゃあ。
  男を戦争に駆り立てる文化というのはセデック族に限ったものじゃない。
  程度の差かにゃ?
  そうじゃない。セデック族の文化は戦争がある事を前提にしている文化なんだ。逆にいえば戦争が無ければセデック族の文化は成り立たない。
 日本軍と戦っても勝ち目はない。下手すれば滅ぼされるかもしれない。だから戦いは避けなければならない。戦わなければ首は取れない。首を取れない男は虹の橋を渡らせてもらえない。そのためには戦わなければならない。でも……。
  堂々めぐりだにゃ。
  このループから抜け出すには首狩りに代わる通過儀礼を新しく作るか、戦って死ぬしかしない。
 旧来から伝わる掟に固執するモーナ・ルダオ達には後者しかなかった。
 映画を観ている間、ウチは同じような事が日本でもあったな~って思った。
  アイヌや沖縄の話かにゃ?
  いや、似ているといっても状況じゃないんだ。
 台湾の人は不快に思うかもしれないけど、ウチが似てるなって思ったのは明治の西南戦争なんだよ。
  え? あれって日本人同士の争いだにゃ。
  確かに異民族の衝突とはいい難い。でも異文化の衝突と見ることはできるんじゃないかな?
  いや、同じ日本人だって。
  明治政府が進める西欧化は裏を返せば鎌倉時代から続く武士の文化を排除するものだった。明治維新後、士族達は西欧化を受け入れるか否かの二者択一を迫られた。
 西欧化を拒んだところで武士の世の中は戻ってこない。それは当時の不平士族達にもわかっていたんじゃないかな。でも西欧化には耐えられない。それならいっそ華々しく戦って死に花を咲かせようとして起こったのが西南戦争だ。
 新しい文化に立ち向かう形で古い文化に殉ずる。
 霧社事件も西南戦争もそんな出来事だったと思うんだ。


 ウェイ・ダーション監督の次回作は台湾から日本の甲子園に出場し、準決勝まで勝ち進んだ嘉義農林高校を描いた「kANO(仮題)」で、今、撮影中なんだって。
  そっちは4時間半もかからにゃさそうだから楽しみだにゃ。
  期待するのはそこじゃないだろ!



モーナ・ルダオ
セデック・バレ 第一部:太陽旗/第二部:虹の橋【通常版 2枚組】[DVD]セデック・バレ 第一部:太陽旗/第二部:虹の橋【通常版 2枚組】[DVD]
(2013/10/31)
リン・チンタイ、マー・ジーシアン 他

商品詳細を見る
スポンサーサイト

テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

tag : セデック・バレ 台湾 日本軍 民族 ウェイ・ダーション

最新記事
カテゴリ
最新コメント
一読の価値あり!
FC2ブログランキング

FC2Blog Ranking

グーバーウォーク
ブログ内容の分析結果で謎の生物グーバーが産まれ、このブログの今を表します。
検索フォーム
投票ボタン
blogram投票ボタン
QRコード
QRコード
ツイッター
月別アーカイブ